あるところに人間に恋をした花の妖精がいました。
名前を、キキョウと言いました。
妖精たちは、自分の花が枯れるときに消える運命です。
キキョウが恋した人間は、毎日毎日花を書きにやってきます。
時には恋人らしき女の人と一緒に。
キキョウは、毎日彼を見るためにがんばって咲いていました。
でも、もうそれもできなくなる。
もうすぐ、冬がやってくるから。
何も咲かなくなる冬が来るから。
また来年、生まれ変わることはできるけど、
以前の個人的な記憶はなくなってしまいます。
一度枯れた花はもう蘇ることはないから。
そうして妖精たちは生きていくのです。
妖精たちの間には、ある言い伝えがあります。
“人間に恋をしてしまった妖精は
もう生まれ変わることができなくなる・・・”
という言い伝えです。
キキョウも、もちろんその言い伝えを知っていました。
でも、もう遅い。
キキョウは恋をすることを知ってしまった。
たとえ結ばれなく、そして生まれ変わることができなくなると
知っていても、もう恋心は消せません。
“出来ることならば、人間になりたい―――”
キキョウはそう思うようになりました。
“でも、なれないことはわかりきっている”
そう自分に言い聞かせて、あきらめようとしていました。
とても月がきれいな満月の夜でした。
女神様がキキョウのもとに降り立ちました。
そして、言うのです。
『そんなに人間になりたいか』と
キキョウは答えました。
『なれるものなら』と
女神様は笑いました。
『そんなになりたいのならば、人間にしてあげましょう』
でも・・・と女神様は続けました
『次の新月の晩までには帰ってきなさい』と
キキョウは素直に喜びました。
これであの人のところに行ける!と
横では、仲間の妖精たちがキキョウを止めようと
一生懸命になっています。
それも気にせず、キキョウは女神様に言いました。
『お願いします、女神様!
私を、あの人のもとへと行かせてください!
必ず、次の新月の晩にはかえってきますから』と。
『わかりました。人間にしましょう。ただし・・・』
女神様は言います。
『正体はばれないように気をつけなさい
あと、帰るときにはこれを泉に投げ込むように。』
キキョウは、花がかたどってあるピン止めを受け取りました。
『行ってきます。』
キキョウは、仲間たちにそう言って出て行きました。
そして着いたところは愛しいあの人が住んでいる、と女神様に教わった場所。
キキョウは扉を叩きました。
それから、キキョウにとって幸せな日々が続きました。
彼は、画家でした。
彼は、たくさんのキキョウをモデルにした絵を書きました。
彼の恋人ともキキョウは仲良くなりました。
キキョウは、気づきました。
彼と恋人の間には確かな強い絆があることに。
でも、悲しくはなりませんでした。
キキョウは、彼の恋人のことも大好きだったからです。
もうすぐ結婚すると教えてもらったときも、心からおめでとうと言いました。
ただ、ぜひ出席してね、と言われたときには悲しくなりました。
その頃にはもういないことをわかっていたから。
キキョウは、女神様との約束はきちんと覚えていました。
楽しかった日もどんどん過ぎていき、新月の夜が近づいてきました。
キキョウは出て行かなければならないことを言わなければ、と思いつつ言えずにいました。
今日が新月、と言う日にやっと言い出せました。
彼も彼女も寂しくなる、と言ってくれました。
そして、夜・・・。
キキョウはお礼を言って出て行きました。
そして、泉に着き、女神様を呼び出しました。
女神様は、言いました。
『おかえりなさい。どうだった?』と。
『行って良かったと思います。』
キキョウはそう答えました。
『そう。よかったわね』
女神様は、いいました。
『女神様、お願いがあるんです』
『あら、なにかしら?』
『私の花を結婚式のときにあげてください。
出ることができないから、これだけは』
『わかったわ。』
女神様は、快くキキョウの願いを聞いてくれました。
あと・・・、そういって女神様は続けました。
『あなたはあの二人の子供として生まれ変われるわよ。』と
『え・・・?女神様、人間に恋した妖精は生まれ変われなくなるんじゃぁ』
とキキョウは聞きました。
『それは違うわ。
人間に恋した妖精は、きちんと相手に受け入れられれば
将来、その相手の子供として生まれ変われるのよ』
と女神様はこともなげに答えます。
『まあ、確かに花としては生まれ変われなくなるけどね。』
キキョウは、嬉しくて、泣いていました。
言い伝えの真実はそうだったのです。
人間に恋をしても、生まれ変われなくなるから、と
その恋心を封印しない妖精が人間になれるのです。
結婚式の日、キキョウが恋した、将来キキョウの父親となるであろう人間は幸せそうに式を挙げました。
その時、空から桔梗の花が降ってきたのです。
新たなる旅立ちを祝福するように、変わらぬ愛という花言葉の花が。
二人には、すぐにわかりました。
これがキキョウからのプレゼントだということが。
そして、一年がたち、彼らの間に子供が生まれました。
かつて、花の妖精だったキキョウが。
その子は、桔梗と名づけられ、みんなに愛されました。
これは、一途に一途に人間を想った花の妖精のお話・・・。
花の気持ちはずっと変わらない
花は一途に人を思う
花の気持ちは一番純粋
花は人の内側を見る
花の気持ちはやさしい
花は憎むという気持ちを持たない
花の気持ちはとても素直
花は自分をよく知っている