第19話・下

私の目の前の風景が、変わった。
これも、初めてのこと。
今まで、風景が変わるのは、起きるときだけだった。
でも、私は起きたわけじゃない。

私が『見た』のは病室。
そのベッドにいるのは、女の子。
私によく似ている女の子。
でも、これは『私』じゃない。
これは・・・『アズサ』?
『アズサ』は窓から外を眺めている。
その先にいるのは、男の子。
楽しそうに笑ってる男の子。
「あの子はね、いつも楽しそうに笑ってるの・・・。」
『アズサ』が言う。
周りには、誰もいない。
いるのは、私だけ・・・。
「名前も知らないんだけどね、気になるの・・・。
なんでかしらね。」
『アズサ』は、言い続ける。
窓の外を見ながら。
「ねぇ、どう思う・・・?」
そう言って、振り向く。
私に向かって聞いてるの?
「だりあ。やっと、来てくれた・・・。
待ってたのよ?あなたが、思い出してくれる日を・・・。」
あきらかに、私に向かって言っている。
・・・どういうこと?
「あなたはね、今、『夢』の中にいるの。
それはわかってるわね?」
「うん。あなたは・・・?」
『夢』の中なのはわかってる。
でも、わからない。『アズサ』が誰なのか・・・。
「まだ・・・効いているの?
思い出してないの?
なら・・・どうしてここに来れたの?」
『アズサ』がびっくりしたように言っている。
そんな、びっくりされたって・・・。
「カイちゃんの投げたお皿を、セイ兄がよけて、私に当たったの。
私の、向こうでの記憶は、そこまで。」
「セイヤと・・・カイくんがいるの・・・?
だから・・・。」
「だから、何?」
他人のような気がしない。
なんていうか、お姉ちゃんと同じような感じ・・・。
『アズサ』に関しての記憶が何もないから、何とも言えないけど・・・。
  コンコンッ
「あ、クレアとセイヤだわ。
だりあ、あなたは私以外には見えないの。
同じ、『夢見』の力を持つ私にしか・・・。
だから、そこで聞いてなさい。いいわね?」
『アズサ』の言葉には、妙な威圧感があった。
でも、さっきも言ってた、『夢見』の力って・・・何?
「アズサ、何?
いきなり呼び出したりして。」
お姉ちゃんだ。まだ、若い。
十六ぐらい?
「うん。ちょっと、頼みがあってね・・・。」
頼み・・・?
なんだろう。
どうして、『だりあ』がいないんだろう。
「頼み?アズサが?めずらしい。」
セイ兄は、一言も話さず、後ろの方にいる。
なんか、変だ。
「うん。聞いてくれる?」
「いいよ?出来ることならね?」
「そう!!
あのね・・・、だりあをつれて、逃げてほしいの。
・・・『あの人』から。」
また出た・・・『あの人』。
誰のこと?
『お父さん』のこと?
「!!で、でも・・・。」
「大丈夫。『あの人』はセイヤと私で食い止める。
お金も、十分あるし。
私の命は、もうすぐなくなるわ。
『夢見』をしすぎたせいでね・・・。
だりあには、『夢見』になってほしくないの。
私のような目には、会わせたくないの。
私はいいの。別に。
でも、だりあはダメ。
私がいるせいで、『あの人』は私とだりあを比べる。
だりあに『夢見』の力があると知られてから。
だりあが、あんなことになったのは、私の責任よ・・・。」
『あんなこと』?
あんなことって・・・何?
「アズサの・・・せいじゃないわ。
全部、あの男が悪いのよ!!
すべて、アイツが悪いの!
どうして・・・あんな男が生きてなきゃいけないの?!」
怒ってる・・・。お姉ちゃんが。
はじめて・・・見たかも。
「クレア、落ち着け。
俺は、とりあえずアイツのそばにいる。
あいつが、だりあを探し出せないように・・・。
クレアは、だりあを守るんだ。
すべて、あいつの言うとおりになんか運ばせないさ。
だりあを守れるのは、俺たちだけなんだから・・・。」
セイ兄が言う。
私は、セイ兄が来た理由を思い出した。
「『アイツ』が死んだから来た」・・・
「わかった。
でも・・・今のだりあじゃ無理だわ。
たとえ、今の環境から逃げても・・・『あの人』から逃げれたとしても、
あの子の記憶はついてくる・・・どこまでも。
記憶がある限り、あの子は逃げることは出来ないわ・・・。」
『記憶』・・・。
でも・・・今の『私』には、その記憶はない。
「大丈夫よ。
私が、あの子の・・・だりあの記憶を改ざんするから。
私とセイヤ、それに『あの人』の記憶をなくして、作りかえる。」
え・・・?
そんなことが・・・できるわけ、ない。
でも・・・
「そんなこと、できるの?
それに、変えるならアイツの記憶だけでいいんじゃないの?」
お姉ちゃんの言うことは、もっともだ。
それに、私は、セイ兄のことは覚えてた。
・・・完全にじゃないかもしれないけど・・・。
「ダメよ。
変えるなら、徹底的にやらないと・・・。
私かセイヤのこと覚えてたら、記憶が戻ってしまう可能性も高いもの。
かわいい妹に忘れられちゃうのは悲しい。
でもね、それでだりあを守れるんなら、何だってしてやるわ。
セイヤも、了承済みよ。
だりあだけはね、どんなことをしてでも、守ってあげたいの・・・。」
かわいい・・・『妹』?
私の目の前で、笑っている『アズサ』は、私のお姉ちゃん・・・?
「クレア、別に俺たちはあえなくなるわけじゃない。
いつか、あいつは死ぬ。
そしたら、だりあにも絶対に会いに行く。
いや、ひょっとしたら、アイツは俺が殺すかもな・・・。
アイツがかわいいだりあに・・・
一番大事な俺の妹に危害を加えようとしたら・・・。」
え・・・。今、セイ兄、なん、て・・・?
私は・・・セイ兄の、妹・・・?
「・・・わかった。
だりあをつれて、逃げる。
それで・・・いいの?」
「えぇ。それで、いいの。」
「どこに行けば、いいの?
行く場所が決まってないと、逃げようにも逃げられないわ。」
そういうこと、だったんだ・・・。
「俺たちと来ればいいよ!!」
男の子が、ドアを開けて入ってきた。
十才ぐらいの男の子。
「「カイ!?今の話、聞いて・・・。」」
お姉ちゃんとセイ兄・・・お兄ちゃんが言う。
思い出してきたかも。
私は、セイ兄のこと、「お兄ちゃん」って呼んでたた・・・。
もう一人のお姉ちゃん・・・
『アズサ』は全てわかっているかのように、穏やかに笑っている。
「うん。聞いてた。
ダリが逃げるんなら、俺と一緒に来ればいい。
俺、もうすぐ引っ越すから・・・。
それと、アズサ姉、お願いがあるんだ・・・。」
「何?カイくん。」
やっぱり、カイちゃんだ・・・。
「ダリの記憶を変えるんだろ?
それなら、兄貴の・・・ミールのことも忘れさせてやってくれ。
ダリ、ミールがいなくなってから、言葉が少なくなった。
それに、ダリがあんなになったのにも、影響があると思う。
だから・・・お願い。」
「わかったわ。」
三人が帰っていった。
「だりあ、ちゃんと聞いてた?
これで、少しは思い出したかしら?」
『アズサ』が聞いてくる。
「お姉ちゃん・・・。
ある程度は思い出したよ。」
「そう。で?何か、わからないことはあるかしら?」
「『夢見』と『あの人』について。
この二つだけはまだはっきりしないんだけど・・・。」
そう。そのほかのことは思い出した。
『あんなこと』って言うのも、思い出した。
私は、『壊れた』んだ・・・
『壊れ』て「人形」になったんだ・・・
『あの人』のことも、見当はつく。
でも、わからない・・・。
「『夢見』のことは、わからなくていいわ。
ときどき見る『夢』を大事にしなさい。
あなたは、『夢見』のことを知ってはダメよ。
『あの人』のことも、自然に思い出すまでは忘れたままでいなさい。
きっと、思い出してもいいことはないから。
さぁ、帰りなさい。
あなたのいるべき場所へ・・・。
あなたに会えて、よかったわ・・・。」
『お姉ちゃん』は優しく言う。
お姉ちゃんの姿が、ぼやけていく・・・。
私は、『夢』の中で意識を失った・・・。


   一途な花の記憶は戻る

   「梓」と出会うことにより

   花は何を感じるか

   花の心はどう変わる

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