第20話・裏

俺とカイは、ずっと、ランさんに怒られていた。
ここの女の子は怖いなぁ・・・。
いや、それだけだりあのことを心配して・・・
友達だと思ってくれてるってことなんだろうが・・・。

「あ、ダリ!ごめんな?
まさか、ダリに当たるとは思ってなかったから・・・。」
だりあが、起きたらしい。
下に降りてきた。
カイは、横目で俺を見ながら、言葉をつむいでいる。
言い返したかったが、ランさんが、こちらを見ていたので、やめておいた。
「だりあちゃん!?大丈夫?!
カイとセイヤくんは、私が怒っておいたから。」
ランさんがいう。
たっぷりと怒られた。
カイは、関係ないことまで言われていた。
「だりあ。ごめんな?」
俺も、言う。
俺がよけなければよかったのに・・・。
「どうして謝るの?お兄ちゃん。
物が飛んで来たらよけるのは当たり前でしょう?」
そういうことじゃない。
その『当たり前』がだりあに危害を加えるならば・・・
それは俺にとっては『当たり前』じゃなくなる。
・・・ん?今、だりあ、『お兄ちゃん』って言ったか・・・?
「謝って当たり前。」
ランさんは、ぶっきらぼうに言う。
かなり怖い。
でも、言ってることは同感だ。
「だりあを守るって約束したのにな・・・。」
思ったことが、口に出てしまった。
アズサ、クレア、それにカイとした約束。
何があっても、だりあを守る。
俺とアズサはアイツから。
クレアとカイは他のものから。
あいつは死んだ。
でも、守るって言った俺とカイが・・・
その対象であるだりあに危害を加えちゃ本末転倒じゃないか。
「アズサお姉ちゃんとの約束?」
何でもないかのように、俺に聞くだりあ。
その何気なさにつられた。
「あぁ・・・って、えっ!?
だりあ・・・お前・・・」
返事をしたあとに気がついた。
だりあは、アズサの記憶はないはずだ。
となれば、答えは一つ・・・。
だりあは、何も言わずにただ、笑っただけだった。
でも、十分わかった。
だりあは、アズサのことを思い出したんだ―――
俺もカイもわかった。
ただ一人、「蚊帳の外」のランさんはわからないでいる。
わからないのが当たり前だ。
「ラン、ごめん、ちょっと・・・。」
カイが言う。
「はいはい。」
自分がいたらいけない話題だと判断したのか、ランさんは奥に入っていった。

「だりあ・・・どうして」
どうして、記憶が・・・。
「えっとね、昔の『夢』、見たの。
『お父さん』に怒られて、お兄ちゃんや・・・アズサお姉ちゃんに
かばってもらってるところと、アズサお姉ちゃんが入院してるところの。
アズサお姉ちゃんは、『私』に気づいてた。
おんなじ『夢見』にはわかるんだって。
で、全部聞いたの。
・・・お姉ちゃんたちと、お兄ちゃんの会話。
アズサお姉ちゃんに聞いてなさいって言われて。」
『夢見』か・・・。
たぶん、アズサが何かのきっかけで出来るようにしておいたんだろう。
それにしても、アズサが入院してたときの俺と、アズサたちの会話・・・?
よく思い出すと、一つだけ、思い当たる会話があった。
俺とクレアが15のときの会話だ―――
アズサが入院したのは、17のとき。
その直後の会話。
10歳だっただりあをつれてクレアが逃げるって言う計画の―――
そのときの会話が、よみがえってきた。
でも、今は思い起こしてるときじゃない。
アズサのことを思い出したのなら、アイツのことも思い出してるはず・・・。
「・・・全部、思い出したのか?」
言えたのは、これだけだった。
あまりに多くのことが渦巻いていたから。
「ううん。まだ・・・。
アズサおねえちゃんのことは完全に思い出したんだけど・・・。
『夢見』と『お父さん』のことは・・・。」
よかった・・・一番つらいことは戻ってきていない・・・。
このまま、戻らなくていい。
「そうか。アズサのことだけは思い出したか。」
安心した。アズサのことは思い出してほしかったからな。
「ダリ、・・・よかったな。」
カイが、言う。
カイもあいつのこと、『夢見』のことを知っている。
「う〜〜〜ん・・・・・。」
クレアだ。
どうせ起きるなら、もう少し早く起きればよかったのに。
「お姉ちゃん、お・は・よ♪」
だりあがそばに行って、言う。
クレアは、寝ぼけている。
「ん〜〜?だりあ〜?
今、何時〜〜?」
まだ、きちんと目が覚めてない。
きっと、そのままにしておけば、すぐまた寝るだろう。
「もうすぐ、お昼だよ?」
だりあが言う。
今は十二時少し前。
クレアは、それを聞いて、一気に目が覚めたらしい。
いきなり飛び起きた。
「えっ!?牧場は!?」
「み〜んな、お兄ちゃんがやってくれたよ?
お姉ちゃん、ずっと寝てるんだもん。
酔いつぶれて。おぼえてる?」
だりあ・・・お前が言えることじゃないだろう。
お前だって、覚えてないんだろう?
「・・・覚えてない。まぁ、いいや。・・・頭痛い。
セイヤ、ありがとう。牧場の仕事してくれて。
大変だったでしょう?」
・・・いいのか?
やっぱり、二日酔いになったのか。
あれだけ飲めばな。
「いや、ポプリが手伝ってくれたから、結構楽だった。
あぁ、手伝ってもらったお礼に、トマトあげたから。」
「うん、わかった。
ポプリちゃんが来るなんて、珍しい。」
そんなに珍しいのか?
横を見ると、カイがだりあに何かを言っている。
あぁ、だりあの記憶のこと言わないと・・・
「あ、そうだ。クレア、だりあの記憶が戻ったぞ。」
どういえばいいかわからなかったから、何気なく言った。
「へぇ、そぅ。よかったわね。・・・えぇっ?!」
俺もこんな反応をした気が・・・
「だりあ・・・本当?」
俺がこんな嘘を言うとでも思ってるのか・・・?
何の得にもならない嘘は言わない。
だりあを守るため以外には。
「うん。」
だりあは、笑って答える。
晴れやかな笑顔。
それからだりあはクレアにどこまで記憶が戻ったか・・・
そして、その記憶がどうして戻ったかを話していた。
「ねぇ、お姉ちゃん、お兄ちゃん・・・。
一つだけ、聞いていい?
・・・アズサお姉ちゃんは・・・?」
全て話し終えた後、だりあが俺たちに聞く。
不安そうな顔で。
聞かれるとは思っていた。
でも、できれば聞かれたくなかった。
だりあが悲しむことは言いたくない。
でも、しょうがない。
「「アズサは・・・」」
俺とクレアは、同時に口を開いた。
クレアも、言いたくなさそうな顔をしている。
カイは、だりあの後ろで悲しそうな目をしている。
「アズサお姉ちゃんは?」
その言葉を聞いて、思う。
だりあは、わかっている。
でも、信じたくないから俺たちに聞いているんだ。
だとしたら、なおさら言いたくない。
その希望がなくなる答えだから―――
「アズサは・・・4年前・・・。」
クレアが言う。
だりあの頬から、涙が落ちる。
アズサに対する、涙。
言いたかった。でも、言えなかった。
アズサが、最後までだりあの幸せを願っていたこと。
最後まで、だりあのことを心配していたこと。
これは、クレアにも言ってないこと。
アズサは・・・最後の力を使って少しだけ『運命』を変えた。
・・・・・だりあとクレアの為に。
俺は、その『運命』の行き着く先を知らない。
アズサが変えたのは、最初の最初だけだから。
ほんの少し、方向を変えただけだから。
それを見届けるのが、もうひとつの俺の役目―――


   「梓」の望みはいつか叶う

   いつか、みんな幸せに

   それを見届けるは夜の月

   その『運命』はどこへ行き着く

   その『運命』はどう動く

   誰も知らないその『運命』

   それを「知る」はつらい事―――

   「ダリア」の花の『運命』は・・・


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