「あ、これ、借りたんだっけ・・・。」
だりあが、机の上にあった本に目を留めて、言う。
『夢の花びら』という題名の本だ。
だりあは、『夢』に縁がある。
いいのか、悪いのかわからないが・・・。
まぁ、いいか。
「読むのか?ほら。」
本の近くにいたから、だりあに本を投げ渡した。
だりあは、見事キャッチ。
「物投げていいんだっけ?お兄ちゃん。
これ、借りてきた本なんだからね?」
だりあは、笑顔で言っている。
こんなときのだりあは怖い。たぶん、今も昔も変わらず。
「ああ、ゴメンゴメン。で、読むんだろ?」
とりあえず、謝った。そして、話題を変える。
これ以上、怒られたくはない。
「うん。読む。外で読んでくるから。」
一人で・・・?危ないじゃないか。
「あ、俺も行く。」
カイが言った。
それならいいか。
「カイちゃん、どうして?」
だりあは、やっぱり一人で外に出るつもりだったらしい。
「だって、ダリ一人じゃ危ないし。」
そう、危ない。カイはわかっている。
「だって、牧場の中だよ?危ないも何も・・・。」
まだ言うか。危ないものは危ない。
「いいんじゃない?二人で外行けば?」
クレアが言う。
クレアは・・・追い出したいだけだな。うん。
「牧場の中って言ったって、危ないものは危ないしな。
ほら、外、行くんだろ?」
カイは、そう言って、だりあを連れて行った。
「ふぅ・・・。行った行った。」
扉が閉まったのを確認して、クレアが言う。
「セイ、今からアップルカブラ作ろうかと思ってるんだけど・・・。」
は・・・?
「アップルカブラって・・・あの、アズサが好きだった?」
アズサが好きだった、ケーキもどき。
ケーキといえるのかは、わからない。
でも、アズサはあれが好きだった。
そして、クレアが唯一作れるお菓子だった。
「うん、そう。
もうずっと作ってなかったんだけど、作りたくなっちゃって・・・。」
・・・ちょっとまて。
「・・・クレア、リンゴなんてあるのか?
今、夏だぞ?」
林檎は、言わずと知れた秋の果物。
今は、夏。
「大丈夫。去年のがあるから。
女神様にお祈りするとね、冷蔵庫に入れれば・・・
何でも腐らないようにしてくれるの。」
・・・・・・・は?
女神様?
いくらなんでも、腐らないってことはないだろ・・・。
「ほら。」
そう言って、クレアは冷蔵庫から林檎を出す。
どこからどう見ても、取れたての林檎。
「どういうことだよ・・・」
いまいち、理解が出来ない。
この街は、いったいなんなんだ・・・?
「深く考えない方がいいよ?
考えたら、きりがないから。」
それもそうだな・・・。
「クレア、お前、変わったな・・・。」
クレアは、変わった。
「え?そう?」
自覚はないのか。
「ああ。考え方とか・・・」
クレアは、首をかしげている。
「ま、いいや。
アップルカブラ、作らないと・・・。」
そういうところが変わったんだって・・・。
「手伝うこと、あるか?」
たぶんないだろうが・・・。
「ないよ?
セイも何か作ったら?材料はたくさんあるから。」
何かっていってもなぁ・・・。
夕飯でも作るか。
「夕飯作る。何がいい?」
クレアに作るものを決めさせよう。
「え、夕飯??
まだ、おなかすいてないよ・・・?」
当たり前だ。今腹が減ってたら、怪物並みの胃袋だ。
「別に、後で食えばいいだろ?」
何も、作ってすぐ食えとはいわない。
俺だって、腹空いてないし。
「あ、なんだ。じゃあねぇ・・・シチュー。
あと、サラダ。それに、スープ。」
そういえば、クレアは、シチューが昔から好きだったなぁ。
って、少し、おかしかった気が・・・。
「・・・ちょっと待て?スープとシチュー?」
シチューって、スープの一種じゃなかったか??
「??。うん。スープとシチュー。
きのこのスープがいいな。」
スープを二種類食べるのか?
「どうかした?」
クレアは、俺を覗き込んで聞いてくる。
変に思わないのか?
「なあ、クレア。シチューって、スープの一種だよな?」
とりあえず、確認する。
「そうだよ?何いってるの?」
それは、こっちのセリフな気がするんだが・・・。
「二種類のスープを飲むのか?」
普通、一種類だろ。
「う〜ん・・・。いいんじゃない?美味しければ。」
そ、そういう問題か・・・?
「ほら、作んないの?ほらほら。」
まったく・・・。
こうして、俺はクレアと一緒にキッチンに入った。
入れられた、の方が正しいかもしれない。
しばらくして、だりあたちが中に入ってきた。
「あ、だりあ。本、読み終わったの?」
それに気づいたクレアが声をかける。
「うん。何か、作ってるの?」
俺たちが二人でキッチンにいるのにびっくりしたようだ。
「これ?アズサが好きだったケーキをね・・・。」
ケーキもどきだろう、もどき。
「これが?」
「うん。アップルカブラって言うの。」
だりあは、そのあたりのことは覚えていないらしい。
「セイヤは何作ってんだ?」
カイがこちらに来て、聞いてくる。
「あ?夕飯。」
それだけを言う。
「夕飯??つい、一時間前に食べたばっかだろ?」
やっぱり、それを聞くよな。
「いいじゃん。作りたくなったんだから。
ガーリックライスに、スープにサラダ、それにシチュー。」
さて、おかしなメニューだって事に気づくか?
「お兄ちゃん・・・私、まだそんなにおなかすいてないんだけど・・・。」
だりあは、気づかない。
クレアと同じような反応。
やっぱり、血はつながってるよな。
「別に、今食えとは言わないから。」
思わず、笑いながら答える。
「ならいいけど・・・」
だりあの手には『夢の花びら』が。
「だりあ、その本、どうだった?
おもしろかったか?」
「え。う、うん・・・。」
どうも、様子がおかしい気がした。
「面白くなかったのか?」
「ううん、面白かったよ?ただ・・・」
煮え切らないだりあの答え。
なにかあったのか?
「ただ?」
即座に聞き返した。
「最後にね、詩と、文章があるの。
文章は外国の言葉で書かれてて・・・
私には読めないんだけど・・・なんか、気になるの。」
外国の言葉?英語のことか?
俺は、キッチンから出て,だりあの所まで行った。
「見せてみろ。」
短く、それだけを言う。
だりあは、そのページを開いて、渡してくる。
その文章を一目見て、思った。
この詩は、アズサのものだ。
読んだことがある。
でも、いったいどうして・・・。
「アズサ・・・・・」
思わず、言葉が出た。
「アズサ?」
だりあが、聞き返す。
でも、悪いが返事をする気にはなれなかった。
あまりに、意外すぎて。
文章は、やっぱり英語で書かれたものだった。
それも、筆記体で。アズサの癖が出ている。
To my precious DAHLIA
「私の、大切なだりあへ。
I wish your happiness.
あなたの幸福を願っているわ。
I wish you not to make Devil's flower of Dreams.
あなたが、夢の、魔の『花』を咲かせないよう、祈っているわ。
Because Devil's flower will shorten your life like me・・・
なぜならば、魔の『花』はあなたの命を縮めてしまうから。私と同じように・・・。
I wish that you will read this someday・・・
いつの日か、あなたがこの詩を読んでくれることを望んでいるわ。」
「・・・・・・・」
だりあは、不安そうにこちらを見ている。
「だりあ、これは、お前宛の詩と手紙だよ。
・・・アズサからのな。」
俺は、本を閉じて言った。
だりあは、反応しない。
いや、出来ないのか?
「これは、お前が、自分で読むべきだ。
俺が、言っていいことじゃない。」
そう、アズサから、大切なだりあへの手紙。
俺が伝えていいことじゃない。
アズサも、きっと望まないだろう。
「でも・・・・・」
だりあは、何かを言おうとした。
でも、クレアに遮られた。
「大丈夫。
マリーちゃんのところに行けば、きっと辞書があるわ。」
マリー?あぁ、あのメガネの・・・。
図書館やってるんだっけ?
「俺も行ってやるから。な?ダリ??」
カイも言う。
「・・・わかった。
今日は・・・遅いから、明日?」
図書館も、もう開いてないだろうからな。
第一、あいてたとしても、許さない。
「そうだな。」
カイが言う。
そして、夕飯を食べて、俺とカイは牧場を出た。
「セイヤ・・・。
アズサ姉からの手紙には、何が書いてあったんだ?
だりあが読んでも、害はないのか?
・・・どうして、あの本に入ってるんだ?」
カイが、歩きながら俺に聞く。
「お前も明日行くんだろ?
だったら、わかるからそれまで楽しみにしとけ。
アズサが、だりあに害になるようなことやると思うか?
思うって言うんなら、俺はお前を殴るぞ?」
最後の言葉は、本気だ。
徹底的にやってやる。
「そんなこと、思うわけないじゃないか。
それを読んで、いやな記憶が蘇らないのかっていうことを聞きたいんだよ。」
当たり前だ。
思ってるなんて言ったとたんに、カイは病院送りにされることだろう。
「たぶん、大丈夫だ。」
たぶん。俺が読んだ限りでは。
「それならいいけど・・・。」
宿屋に着いた。
もう、一階には誰もいなくて、二階ではもう、寝ていた。
ずいぶん早いよなぁ。
俺たちも、すぐに寝た。
もう、よけいな話をしたくはなかったから。
月には双子の花がいる
さらに月には「梓」もいる
月は「梓」の気持ちがよくわかる
「梓」は「ダリア」のためを思う
それは、月も双子の花も、太陽も同じこと
全て、「ダリア」のためを思うものたち
「ダリア」を大事に思うものたち―――