「ダリ・・・」
牧場を出たところで、カイちゃんが立ち止まった。
どうしたのかな?
「ダリ、俺と賭けしようか。」
「賭け?」
カイちゃんは、昔から『約束』をそんなにしない。
そして、その代わりに『賭け』をする。
それは、『賭け』って言う名前の『約束』・・・
「俺が戻ってくるまでに・・・」
戻ってくるまでに?
「俺が戻ってくるまでに、ダリが・・・
街の奴らと笑って話せるようになるかならないか。
また昔みたいにみんなと笑って話してるダリを見せてくれよ。」
また、昔みたいに・・・?昔・・・?
「どうだ?ダリ、やるか?やらないか?」
カイちゃんがいたずらそうな目で聞いてきた。
私は、自分がちゃんと話せるようになるのかなんてわからない。
でも・・・この『賭け』にはカイちゃんの希望も含まれてる気がする。
そうなると、カイちゃんの『賭け』に応じたくなる。
「わかった・・・やる。」
私の答えを聞いて、カイちゃんは満足そうに笑った。
そして、歩き出した。
どっちがどっちに賭けるかとか決めなくていいの・・・?
「ほら、ダリ、さっさと借りて帰ろうぜ。」
そうだ・・・
サイバラさんのところに行ってトンカチ借りてくるんだった・・・
「ばっかも〜ん!!」
私がドアに手をかけた途端に怒鳴り声が響く。
その声で、自分の体が硬くなったのがわかった。
・・・どうして?
「ダリ・・・どうした?大丈夫か?」
カイちゃんが私の顔を覗き込む。
とっても心配そうな顔で・・・
「大丈夫・・・」
笑って、言った。
少しでも、カイちゃんを心配させたくない。
大好きな人には、自分の心配をしてほしくない。
これは、私のわがまま・・・なのかな・・・?
「それならいいけど・・・
さっさと借りて帰ろうな?」
あぁ・・・心配させちゃったなぁ・・・
どうして、私はこんなにダメなんだろ・・・
心配させたくなくっても心配させちゃう。
「うん。でも・・・なんか入りにくい・・・」
鍛冶屋さんの中から、まだ怒鳴り声が聞こえる。
そんな状況では、いくらカイちゃんと一緒っていっても入れない・・・
「あぁ・・・大丈夫、大丈夫。
こんなの日常茶飯事だから。」
日常茶飯事・・・?
鍛冶屋さんって・・・鍛冶屋さんって・・・?
「こんにちわ〜」
カイちゃんは、なんだか慣れたようにドアを開けて、挨拶をしている。
「なんの用じゃ!?用がないなら来るんじゃない!!」
サイバラさんがこっちに向かって怒鳴った。
いつも、やさしいおじいさんだったと思ったんだけどなぁ・・・
「サイバラさん、あんまりダリを怖がらせないでくれるかなぁ?」
いつもより怖いサイバラさんに、カイちゃんは普通に話してる。
すごいなぁ・・・
「こ、こんにちわ・・・・」
恐る恐る、カイちゃんの後ろから顔を出して挨拶をした。
また、怒鳴られるかもしれないって思いながら。
「だりあさん、驚かせてすまなかったね。」
サイバラさんは、私を怒鳴らなかった。
いつもの優しいサイバラさんだった。
よかった・・・
「こんにちわ、だりあさん。
めずらしいね、ここに来るなんて。」
グレイ君だ。
・・・あれ?手、怪我してる・・・?
「グレイ、それどうしたんだ?」
カイちゃんも、グレイ君が怪我してるのに気づいたみたい。
「あ?あぁ・・・
ちょっと、失敗しちゃって。」
失敗して、そんな怪我になるの?
鍛冶屋さんって、結構危ない仕事なんだなぁ・・・
「大丈夫かよ・・・鍛冶屋見習い・・・」
見習い?グレイ君って修行中なんだっけ?
「大丈夫だよ、このぐらい。」
あ、そうだ・・・・
「はい、これ。
ばい菌入ると大変だから。」
ポケットの中に絆創膏があったのを思い出して、グレイ君に渡す。
「あ、ありがとう・・・・・」
「ダリ・・・そんなことより早く帰ろうぜ。」
カイちゃんが私に寄りかかりながら言う。
・・・よりかからないでよ、カイちゃん・・・
「うん。サイバラさん、トンカチ・・・貸してもらえませんか?」
「トンカチ?何に使うんじゃ?」
ドアが壊れたから・・・なんていったら・・・貸してもらえないかな・・・?
「えっと・・・ドアを壊しちゃって・・・」
でも、きっと正直に言ったほうがいいよね。
「ドアを?牧場には金づちないの?」
グレイ君が意外そうに聞いてくる。
普通、牧場にはあるものなのかな?
「それがないみたいなんだよな。
今日ゴッツさんも休みの日だし。」
だから、鍛冶屋さんに来たんだよねぇ・・・
「わかった。持っていきなさい。ほら。」
あ、よかったぁ・・・
「人手が必要ならばこれも連れて行っていいぞ。」
これ、と言ってサイバラさんが指差したのはグレイ君。
グレイ君も物扱いされてるんだ・・・?
「あ〜・・・多分大丈夫。
グレイがやると余計に壊されそうだし。」
カイちゃん・・・そんなこと言わなくても・・・
「ありがとうございます、サイバラさん。
あとで返しに来ますね。」
あとで・・・返しに来るときには前作ったクッキーでも添えて返そうかな・・・
「ほら、ダリ、さっさと帰って直しちゃおうぜ。」
カイちゃんは、もう外に出てる。
早いなぁ・・・
「わかった〜
じゃあ、また来ますね。」
軽く、会釈をしてから外に出て、カイちゃんと一緒に牧場に戻った。
一途な花と太陽との“賭け”
“賭け”と言う名の“約束”
その約束はダリアのために
賭けに“勝つ”のは一体どちら・・・?
それは未来でないと、わからない―――
未来を知れる、者はいない―――